スピーカーシステムの自作について
はじめに:イーディオのオーディオに対する考え方
私どもはスピーカーシステムを含むオーディオ機器を自作する前提として以下のように考えています。この中で必要な部品や作業、製品の手配、あるいは試聴などを含めてお客様により良いオーディオシステムを保有もしくは体験していただくことが私どもの役割だと認識しています。
小型フルレンジ一発でオーディオの楽しみがほぼ満喫できると言う方々にはあまりこの文章は役立たないでしょう。ごく少人数の声だけ、弦楽四重奏程度の音の量、種類であればある程度は可能でも、フルオーケストラの楽しみをあたかも会場にいるのと同じくらいの感動を得たいと思えばある程度のレンジと低歪率を満たしたスピーカー・システムが必要だからです。
むしろ小型のフルレンジが良ければ質の良いヘッドホンで味わったほうがよさそうです。
またある程度の音質、英語でTrue-To-Life(本物と同じ)とされるオーディオシステムを持ちたければソース機器(CDプレーヤ)、D/Aコンバータ、アンプもある程度の質が得られるものを揃える必要があります。
私どもで試聴に使っているのは、今はソースはvoyageMPDからUSBで再生し、MSBテクノロジーのD/Aコンバータ、アンプは別府式のAEDIO-1iなどです。定価ベースでは300万円くらいの構成です。これで384KHz24bitのハイサンプリングまで再生できるシステムです。
『1000万円のシステムの感動と質を30万円で』という弊社のモットーにはまだ届いていませんがある程度の質を持つシステムでないと評価ができないことがあるためでもあります。
このシステムでいろいろなソースをかけますと、ある程度レンジも歪率もスピーカーに比べて十分なものとなっているので意外にスピーカーの違いが分かりやすくTrue-To-Lifeの質を備えています。
スピーカーシステムを自作するには
私どものオーディオシステムに対する考え方はスピーカーについても踏襲され、それは以下のような原則に基づいて自作を勧めています。
原則1:
自分の好みと合ったユニットなどを知るため臆せずハイエンド店で聞いてください。
目指す音が分かっていれば使うユニットも限定しやすい。有名なユニット、高名なユニットを使っても目指す音が出るとは限らないのである程度ユニットと自分の好みとの関連を知るためにはハイエンドを販売する店でソース機器、DAコンバータ、アンプなども良いものを使って聞いていただくのが必要です。
原則2:
スピーカーを作るなら、まずは計測システムを揃えること。
たとえば上のスピーカーを買っても周波数特性も分からない、歪率特性も分からないのでは安心して市販品も使えません。
たった5万円あれば測定システムが買えて良い特性であることが分かるのです。
原則3:
市販で50万円以下の定価のスピーカーで満足できたら買うほうが作るより良いかも。
実購入価格で30万円までの価格帯は量産しているメーカー品のほうがコスト対性能費が良いのは当たり前。支出金額がそれ以下では作ることでの自己満足以外かあるいは特殊な音質だけとりえとなるからです。低価格・予算が優先なら、中古屋か安売りネット店で良いものを見つけたほうが良いでしょう。
それでも作りたい、どんなものができるのかの例として最後にキットの例を載せています。
市販のハイエンド・スピーカー・システムのほとんどは高いスピーカーであればあるほど、開発費、市場に浸透させるための販売促進の費用、良い場合でもキャビネットの材料、工作費用(金属製や硬質肉厚のキャビネットであれば特に)が占めています。
丈夫な箱の部分を自作でどうするかは後ほど述べます。
まずは自分の好みが明らかでしょうか?
たとえば高域のトゥイータは皆様が思っているよりスピーカーの全体の質についての貢献度は大きい。それだけから出ている音を聞くとこんな音がそんなに影響するのかと思い勝ちです。これはある意味高級なトゥイータを一度聞けば分かります。スピーカーの上品さ、音楽の微小音量での分解能はこの部分で決まります。
ソフトドームはいわばバランスが良ければ、割と低価格でレンジが広く低歪のシステムが構成できます。やや大雑把ですが25mmのソフトドームで2KHz~16KHzくらいは再生できます。
私の経験では古いものになりますがDynaudio
T330D 、Scan-Speak
D2905-9900-00などがこれにあたります。
私どものホームページにある会社創立のころに作ったユニウェーブ式のスピーカーがまだ現役で動作していますがこれのユニットはScan-Speakの18W/8545-00にD2905-9900-00です。
http://www.aedio.co.jp/beppu/RG/RG1997-5pp48-54.pdf



写真左:Scan-Speak
18W/8545(中)とD2905/9900-00(右)で組んだユニウェーブ型スピーカシステム
他にもありますが価格的には1本2~5万円程度でソフトドームの高級品が買えます。特徴は価格としてはそれほど高くないがバランスが取れて聞きやすい音質で聞けるスピーカーシステムが作れることです。メーカーの一番高級なソフトドーム・トゥイータを利用するとそれほど失敗のないシステムができます。
これに対して低域のウーファは大きいので注目されますが、意外にその大きさほどの貢献度は高くないと考えるほうが良いでしょう。ウーファの貢献度は2wayくらいの構成ですと、深みとかホールでの響きなどが改善されます。
押しが強い低域が欲しければどちらかと言うとポリプロピレン、深み中心なら良い質の紙コーンなどが最初は適当でしょう。アルミコーンや固めのコーン材質では意外に使用帯域外の高域が特有の共振音を伴い、バランスの良いスピーカー・システムを低価格で作るには向いていません。むしろ中・上級者用のシステムとなります。これはトゥイータも似た関係があり、かなりハードドームでは高価な組み合わせでないと共振帯域を避けるとユニットの担当帯域が狭くなるためバランスの良いシステムが作りにくいのです。
何度かスピーカーシステムを手がけてネットワークや測定に十分な経験ができればこうした組み合わせも悪くありませんがコストとしては平均的に高いものとなります。
市販で成功したシステムとしてはArtemis
EOS(ペアで80万円くらいでした)はケプラーの固めのプラスチックコーンのETON7インチにAccutonのC2-11(C2-12=C25-6-012)を組み合わせたものがあります。ユニットは左右で11万円くらいですが、箱がかなり木製ですが凝った形と肉厚のものになっています。
このようにしてある程度自分の好みの音が出そうなユニットの検討をつけたところでユニットを検討します。
仮に2wayであれば、下限は40~100Hzのどのあたりに設定するかで使えるユニットと箱、価格などを加味して考えます。たとえばAudioTechnologyの6A77などは下は40Hzくらいまでバスレフでなくてもある程度特性は出ますが、上限が2~3KHzですので選択できるトゥイータが少なくなります。ここで言う上限・下限の周波数は通常のLCRによるネットワーク(フィルター)で上下に著しい共振などで出たり、歪が増えて聞きづらくなるのを避ける安全を見た数値です。11cmクラスのウーファやAudioTechnology
15H52などはバスレフ無しでは低域せいぜい60Hz~70Hz近くが下限ですが、上限は3KHz~4KHz近くですので比較的トゥイータの制限はゆるくなり選べるユニットも増えます。
このようなことを体験するのに良いユニット例となると作りやすさでは11cmの2way、作例やキットが設定されバランスが取れれば18cm程度の2wayも良いと思います。たとえばSEASのExcelシリーズのW12CY001と25mmのT25CF001なども良い入門セットです。
こうしたユニットである程度バランスが取れた2wayシステムを作った後でしばらくして「んー、なんとなくフルレンジより声がクリアでないぞ」と感じたら3wayにまで手を伸ばすことになります。
こうなるとハードドームのユニットなども出番が出てきます。
ネットワークはどうするの?

一番の早道は外注することです。私どもが外注しているMadisoundではLEAPと言うソフトウェアを利用してネットワークをユニット指定で作ってくれます。これを元に多少の変更を追加することである程度の質と特性は得られます。2wayでしたらステレオで3万円くらいで割と高級な部品で構成したものができます。図のような回路図と予測特性が付いてきます。
またもしソースがPCで良いなら私どもが無償で出しているアクティブ・クロスオーバー(チャンネル・デバイダー)が使えます。これはFIRフィルターを計算に用いたリニアフェーズ、シャープな遮断特性を兼ね備えた優れたソフトウェアです。もともとはユニットの質の良い帯域だけをシャープにカットして使うシステムでなんとか波形再現性が高いものを作りたいので開発した(実際にはおなかまで開発してもらいました)ものです。
http://www.aedio.co.jp/download/index_j.html
この使い方は簡単に言えば、スピーカ・ユニットの特性グラフを見て使える帯域を設定してやれば2way/3wayがほぼ理想に近い使い方で再生できます。もっとも本格的にやると高いD/Aコンバータを2台~4台用意しなくてはなりません。
私どもではこの用途のD/AコンバータにはスピーカーシステムのテストではローランドのUA-101/UA-1000などを測定用とかねて利用しています。もっとも安くあげるとしたら、HDMIインター(写真左:
ローランドのOcta
Capture
UA-1010、10チャンネルの出力が同時にできるサウンドインターフェイスの例、測定にもファンタム電源が使えて便利)
フェイスでAVアンプにマルチチャンネルのリニアPCMデータを送ったり、良質で低価格なパワーアンプが複数台あるときには実験ではオンボードで少し高級なマザーボードに乗っているALC892などの7.1chサウンドチップやUSBで接続できるSurroundのサウンドデバイス(例:
CreativeのX-Fi
surround 5.1など)を使ってでも周波数特性を測り、ユニットの担当帯域、遅延量を決めるためのマルチアンプシステムが構築できます。
測定はどうするの?
私どもでお勧めしているのはARTA
Labのものです。ライセンスを2万円以下で購入して、一番安いのはTASCAM(TEAC)のUS-144MKII(amazon.co.jpで15000円くらい)、マイク(ベーリンガーのECM8000なら6000円くらい)でとマイクスタンド(3000円くらい)を用意すればスピーカーでの主な測定は居室で下のような無響室に近い特性が取れます。全部で5万円くらいと決して安くはありませんが、スピーカーを作るのであればアンプでのオシロスコープと同じで何が起きているか確認できるツールとして便利かつ不可欠です。もちろん機能にはスペアナ機能もあり、1/3オクターブでのエネルギーの表示などもできるようになっています。
下の図は産業技術総合研究所に収めたスピーカの特性の例です。左がインピーダンス特性、右が周波数特性で位相まで表示しています。


下図:室内で3wayスピーカシステムの周波数特性と歪率をスイープサイン波で測定

このように測定機器を持つことでスピーカ測定と言ってもせいぜい周波数特性だけのものからもっと詳しくスピーカーで何が起こっているが細かくわかり、調整や自分向けのチューニングもかなりそれらしくできるようになります。
実際の進め方
ウーファ、トゥイータとも売価で15000円/本以上のものであれば音質はハイエンドと言っても差し支えないほどの能力を持っているものが目白押しです。
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それらの中から自分の好みの音が出そうなものを選ぶ。
・販売店と相談してその組み合わせである程度ねらいの(好みの)音が出せそうか相談する。
特にスピーカー以外の機器が悪いと信号がスピーカーまで来ませんのでそれも含めて相談しましょう。PCオーディオでしたら、ある程度質の良いPC用USB接続のDAコンバータにアッテネータだけをつけたパワーアンプでしたらコストの割りに良い音質のもの(スピーカー含めて50万円以内の製作費用)ができると思います。
・ネットワークは外注か、あるいは外注+調整か、あるいは一から測定システムとシミュレーションソフトでの自作か、マルチアンプを決める。私どものお勧めは全体を外注で組み立て微調整を測定で比較しながら設定するか、最初からPCのデジタルチャンデバでのマルチアンプシステムです。
これらを考えながらはじめてください。
有限会社イーディオ
技術担当 飯田 豊
キット例:箱別のキットNADA
2-Way Klang + Ton Kit Pair using Illuminator Drivers

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価格:
20万円+USからの送料+消費税
スキャンスピーク(デンマーク)の最新最高級の18cm紙コーンウーファilluminatorシリーズの18WU/4741TとベリリウムTwのD3004-6640-00を組み合わせたドイツの自作誌が企画した秀逸のキットです。
現行のキットの中では高価ですが、透明で高分解能の高域、深みのある低域がバランスの取れた構成です。
ネットワークにはMundorffをはじめとしてユニットの質にあった高級部品を採用しています。箱は20リットル程度のバスレフの箱になります。45~22KHz±3dBくらいの特性が得られ、ハイエンドスピーカーとして音質、特性ともに恥ずかしくないものとなります。
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ユニットの組み合わせとネットワークに箱もついたキット例:Seas
Idunn 2-Way Speaker Kit - Pair - Complete

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価格;
約15万円くらい(箱なしなら9万円くらい)
重量:
45kg
SEASのIdunnはノルウェーのユニット・メーカーがいくつか出しているキットの一例にさらにキャビネットも入れたものです。U18RNX/P 18cmのポリコーンウーファ、27TBCDのアルミ/マグネシウムトゥイータの組み合わせにMundorffなどのネットワーク部品を組み合わせたものです。
たぶん似た性能のものを市場で購入すると10万円くらいで買える可能性があります。
このあたりは悩ましい価格帯です。
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